10年以上前にこの形を完成させ、今もデザインを変えず生産が続いているキャロルクリスチャンポエルの最高傑作「ハイネックレザージャケット」。
古くからのファンも納得させ続け、なおかつ新たなファンも増やし続ける名作の「価値の持続」は、ファッションが商業的に過激な進化を求めることに疑念を抱くキャロル氏が出した結果の一つと言えるでしょう。
ブランド側のコマーシャル活動は一切なく、世界でも限られた販売店とファンの熱狂のみで名を馳せた究極の1着。
こうした名品を取り扱えることに私自身も感謝しながら、店頭に現品がある間に情報を残せたらと思います。
HIGH NECK LEATHER JACKET
LM/2599 CORS-PTC
COLOR : BLACK (10)
首をぐるりと囲うように角度を付けて作られたネックデザインを起点に、このジャケットは組み立てられています。
前側にやや重心をかけたアームの取り付けや、肩甲骨から脇下付近のタイトなライン。その他細かいディティールも体の動きを意識した構造となっています。
着用時、特に革が身体に馴染んだ頃合いには、布帛製品では表現が難しいはっきりとした曲線美が各所に現れ、所有者にとって他に替え難い逸品に。
そうした狙いがあるが故に、最初は革もハードで体を締めるような圧を感じますが、世界最高峰と言われる作品が徐々に自分に懐いてくる喜びは、なんとも貴重で刺激的です。
正面のダブルジップは斜めに走ります。
角度を極端につけていないため、流れは変形的にはならずナチュラル。
明らかに普通では無いものの、ある種シンプルとも捉えられる折衷的なデザインが、世代やジャンルを超えて多くの人の興味を惹く理由の一つです。
両サイドのポケットもデザインに工夫があり、ジャケット全体の印象付けにうまく作用しています。
開き口に余白を付けてジップを立体的に見せるだけでなく、スライダーをボタンで止められるオプションで独自性を表現。
機能的に超優秀と言える仕掛けではないものの、見る人の注目を集め、興味をもたせる演出は”CCP”のものづくりには欠かせません。
同様のシステムは袖のジップにも採用されています。
こちらは長い袖をカフスボタンのように手首で止める役割も果たします。
後ろ身頃は一枚革で形成され、体の動きや背中の丸みに合わせて遮りの無い自然なフィット感が生まれます。
レザージャケットを体に合わせて変化させていく過程において、こうした幹の部分の革馴染みが着用者にとっては非常に重要です。
肩の部分の切り替えしも特徴的。ショルダーラインが突っ張らずなだらかに流れます。
肘の部分はシームを無くし、動かしやすさにも配慮されています。
このアイデアには動きが大きい部分だけに極端な革馴染みが出ることを防ぐ狙いもありそうです。
内側は両胸にジップポケットが付いており、ライナーはパンチングが施されたコットン素材。
アームにもこの裏地が使われており、袖通しは滑らか且つハリがあって丈夫な印象です。
HIGH NECK LEATHER JACKET
モデル 175cm 60kg
着用サイズ44
ここからは実際の着用画像もご覧いただければと思います。
正面からみると肘のあたりを頂点とした弧を描くスリーブラインがとても綺麗です。
アームの顕著なシワは新品の状態で、すでにブランド側がある程度形成し、納品時にはまるで人間の体のようにしっかり紙が詰められた状態で店頭に到着します。
前に溜まりを作り後ろ側にゆとりを儲けることで、シルエットを崩さずに迫力のあるシワが楽しめるのです。
バックスタイルは、脇下あたりからグッと引き締めたラインが意識されています。
着初めはこの辺りの革の硬さが手強く感じられますが、肩甲骨あたりが馴染み始めると腕、肩、胸から腹部のあたりなど、全体的に余裕が生まれ着心地も格段に良くなります。
そして最後は私が約3年着用したものと、新品を見比べていただければと思います。
どちらも使用しているのは同じホースレザー”CORS”。
左がサイズ46の私物で、右が新品の42サイズです。
腹部に現れているハードなシワは、屈んだり座ったりする際の前傾姿勢で自然と深まったように思います。
自身の体感ではこの部分もかなり柔軟になっている印象です。
そして個人的に一番の変化を感じるのが背面脇下の馴染みです。視覚的に見て分かるものではありませんが、ここの動きがスムーズになると自然とフロントジップも締めやすくなります。
最初はインナーがTシャツでも動きにかなり制限があったものが、今ではニットを挟んでも無理なく着用できるところまで身体に馴染んできました。
写真の手前が新品で奥が3年着用したものになります。
実のところ3年間でクリームなどを添付したのは1.2回のみ。十分にしっとりとした風合いが保たれており、まだまだ安心して長く愛用できそうです。
“CCP”の代表的な馬革”CORS”はずっしりとした迫力がありながらも、着込んでいくと全体にきめ細かな皺が現れ上品にも映ります。
次第と高まってくる光沢。立体感も増し、光の当たり方にも違いが出てくる頃合いの姿はなんとも格別。
新品の状態でも相当パワフルですが、自分の手が加わることでさらに力強さを見せてくれる頼もしさ。それを実感できた時、この1着を選んでよかったと心からお喜びいただけるかと思っております。
私もこのレザーに袖を通すと、やはり気合が入ります。
購入を決める際の一大決心。革が馴染むまでの悪戦苦闘。色々な思い出がこの1着と共にありますが、私としてはこのレザーを着て”CCP”のオフィスを訪れた際に、ブランドメンバーから大歓迎を受けた事が、死んでも忘れられないほど刺激的に心に残っています。
これはあくまで私の経験談に過ぎませんが、、”CCP”の作品が誰かを喜ばせるために作られていることを実感した瞬間。
とても情熱的で愛のあるスペシャリスト達によってこの一着が生み出されている事実に私は本当に感銘を受けました。
“CCP”の製品を最高の状態に仕上げるのは果たして誰なのか。
その答えを誰よりも理解しているからこそ、デザイナー「キャロルクリスチャンポエル」氏は表舞台に姿を現さないのかもしれません。
SHELTERⅡ 山崎
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